プラネタリーディフェンスについて

バリンジャークレーターは、アメリカ合衆国アリゾナ州北部に位置する、地球上でも最も保存状態の良い隕石衝突クレーターの一つです。直径は約1.2キロメートル、深さは約170メートルに達し、約5万年前に鉄隕石が高速で地表に衝突して形成されました。JAXA撮影。Credit: JAXA

プラネタリーディフェンスとはなにか

防災としてのプラネタリーディフェンス

プラネタリーディフェンス(Planetary Defense、PD)とは、小惑星や彗星などの天体が地球に衝突することで生じる被害を防ぐため、または最小限に抑えるための国際的な取り組みです。地球には常に宇宙空間を移動する多くの天体が接近しています。その中でも特に地球の近くを通過する天体を「地球接近天体(NEO:Near Earth Object)」と呼び、多数存在することがわかってきました。 過去には、1908年のツングースカ大爆発や、2013年のチェリャビンスク隕石落下のように、比較的小さな天体であっても地域的に大きな被害をもたらした例があります。さらに大きな天体が衝突すれば、広範囲に深刻な影響が及ぶ可能性も否定できません。 PDはこうしたリスクを自然災害の一種として捉え、「発見」「監視」「対策」という段階的な取り組みを通じて、人類の生命や社会を守ることを目的としています。近年は、観測技術の進展により、衝突前に天体を発見し、将来の接近や衝突を予測できるケースも増えてきました。

小惑星の地球衝突の想像図
恐竜の時代に起きたとされる、小惑星が地球に衝突した際の想像図。これまでの観測結果から今後100年間のうちにこのような地球規模の災害となる小惑星の衝突がおこることは考えにくいことがわかっています。一方で都市を壊滅させるような被害を引き起こす数10m前後の小惑星にはまだ未発見のものが多くあります。 Credit: 池下章裕/JAXA

地球接近天体を見つけ、正確に知る取り組み

プラネタリーディフェンスの第一歩は地球に接近する可能性のある天体をできるだけ早く見つけ、その軌道や性質を正確に把握することです。地球接近天体はその数が非常に多く2026年6月時点で約4万2千個が発見されていますが、特に数十メートル規模の小さな天体はまだ多くが未発見と考えられています。 こうした天体の発見には地上の望遠鏡による継続的な観測が不可欠です。小惑星は夜空を撮影した画像を解析し恒星の間を移動していく天体を見つけ出すことによって検出します。発見後は世界中の観測機関が協力して追跡観測を行い軌道を徐々に高精度で計算していきます。 日本は長年にわたり地上観測に取り組んできました。天体の位置や動きを正確に知ることは衝突の有無を判断するだけでなく、次の対応を考えるための重要な基盤となります。

太陽系内に分布する地球接近小惑星(NEO)を示した図
太陽系内に分布する地球接近小惑星(NEO)を示した図。灰色の点が現在観測されている小惑星、赤点がそのうち今後地球に接近する可能性のあるNEOを示しています。Credit: JAXA

衝突を防ぐ・被害を減らすための方法

もし地球に衝突する可能性のある天体が見つかった場合、次に考えるのが「どう対処するか」です。現在、技術的に実証されている方法の一つが探査機を小惑星に衝突させ軌道を変える「インパクト法」です。2022年にはNASAの探査機が実際に小惑星に衝突し、軌道が変化することが確認されました。 このほかにも、探査機の重力を利用してゆっくり軌道を変える方法や将来的な技術としてイオンビームや核エネルギーを用いる案など、さまざまなアイデアが研究段階にあります。ただし天体の大きさや構造、接近までの時間によって有効な方法は異なり、すべてのケースで万能な対策があるわけではありません。 そのためPDは単なる技術開発にとどまらず、国際的な情報共有や万一の被害に備えた防災・減災の考え方とも密接に関わる取り組みとなっています。

日本とJAXAのプラネタリーディフェンスへの貢献

日本はこれまでの小惑星探査を通じてPDに重要な貢献をしてきました。「はやぶさ」や「はやぶさ2」による探査は地球に接近する小惑星の形状や内部構造、物質の性質を詳しく明らかにし、将来の衝突対策を考える上で重要な知見をもたらしています。 現在も「はやぶさ2」の拡張ミッションとして小惑星近接フライバイ探査や非常に小さくて高速回転する小惑星を探査する計画が進められており、これはPDに関連する技術の獲得や現実的に地球に衝突する可能性があるサイズの天体を理解するための貴重な機会となります。また、日本は地上観測や国際ネットワークづくりでも実績を重ねアジア太平洋地域における連携のハブとして期待されています。 近年はJAXA内にプラネタリーディフェンスを専門に検討する体制も整備され、国際的な議論への参加や貢献を強化しつつあります。

これからの日本のプラネタリーディフェンス

2029年には小惑星アポフィスが地球に極めて接近することが分かっており世界的に大きな注目を集めています。この接近は衝突の危険はないものの、観測史上でも前例のない規模と近さでありPDに関する理解を深める絶好の機会とされています。 欧米を中心にプラネタリーディフェンスはすでに「人類全体の安全保障」として位置づけられ、政策・組織・国際協力が進められています。一方、日本ではこれまで培ってきた高い探査技術や国際的な信頼関係を生かしつつ、PDをどのように社会の中に位置づけていくかが今後の課題です。 宇宙からのリスクに備えることは将来世代への責任でもあります。