RAMSES Mission

小惑星アポフィスに到達し、観測を行うRAMSESのCG。Credit: ESA-Science Office

地球に迫る小惑星アポフィスとRAMSESミッション

2029年4月13日(金)、直径約340メートルの小惑星アポフィスが地球から約32,000kmという非常に近い距離を通過すると予測されています。これは静止衛星軌道よりも近い距離で、観測史上きわめて稀な接近です。この機会を捉え小惑星が地球の重力からどのような影響を受けるのかを詳しく調べるために計画されているのが、欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの共同ミッションであるRAMSES(Rapid Apophis Mission for Space Safety)ミッションです。RAMSESは地球に衝突する可能性のある天体に備える「プラネタリーディフェンス(地球防衛)」の観点からも重要な意義を持っています。JAXAはこの国際的な探査計画に日本の技術を提供する形で参画しています。

小惑星アポフィスを探査するRAMSES探査機のイメージCG
小惑星アポフィスの探査を目的としたRAMSES探査機のイメージCG。2029年に予測されている地球最接近の前にアポフィスに到着し、形状や構造などについて重力の影響による変化を詳しく調べることで将来のプラネタリーディフェンス活動に必要な知見の獲得を目指します。Credit:ESA-Science Office

RAMSESの主要諸元

項目 内容
探査機構体寸法 約 1.6 × 1.6 × 1.6 メートル
質量 約1.3トン(推薬込み)

RAMSESの観測計画

項目 内容(予定)
打上げ 2028年度
アポフィス到着 2029年2月
地球最接近前 2029年3月1日から4月11日
アポフィスから20~1kmの距離
地球最接近中 2029年4月12日から4月14日
アポフィスから5kmの距離
地球最接近後 2029年4月15日~ 運用を継続
拡張運用 自律制御実験、制御効果、商用深宇宙テストベンチ等

RAMSESの目的

RAMSESの最大の特徴はアポフィスが地球に最接近する前後の姿を連続的かつ高精度に観測する点にあります。小惑星が地球に近づくと重力(潮汐力)の影響で軌道や自転状態が変化したり、表面で地滑りや微小な変形が起きたりする可能性があります。RAMSESでは高解像度カメラやレーザー高度計、内部構造を探るレーダーなどを用い、こうした変化を分単位の時間分解能で捉えます。これにより小惑星の構造や強度を理解し、将来もし地球に衝突の恐れがある天体が見つかった場合に、どのような対策が有効かを判断するための基礎データを得ることが期待されています。

RAMSES探査機の主な搭載機器

搭載機器 主な役割・観測内容
可視光カメラ 小惑星アポフィスの形状や表面の様子を詳しく撮影します。可視光カメラは主にESAが担当し、 赤外カメラはJAXAが提供することで、表面の温度分布や物質の性質を調べます。
熱赤外カメラ(TIRI) 表面の温度分布を調べ、表層熱物性の調査を行います。多波長分光により、表層物質の種類や性質を調べます。この熱赤外カメラはJAXAが提供します。
レーザー高度計 小惑星までの距離を精密に計測することにより、探査機の小惑星近傍での衝突回避運用に役立つ他、探査機と小惑星との距離から重量場の計測なども行います。
レーダー アポフィスの内部構造や空洞の有無などを調べます。
重力計 探査機の運動のわずかな変化から、小惑星の重力の強さを測定し、 質量や内部の偏りを推定します。
電波科学 地上局と探査機の電波通信を精密に解析し、小惑星の質量や重力場を推定するとともに、探査機の軌道を高精度で決定します。
2機の小型分離探査機(CubeSatなど) 本体から分離して小惑星へ接近し、表面付近や内部構造を補助的に観測します。 表面から発生する塵(ダスト)の観測なども想定されています。また、1機はアポフィスへの着陸と地震活動の測定に挑戦します。

JAXAが果たす役割

JAXAはRAMSESに対し主に三つの技術的貢献を想定しています。一つ目は、熱赤外カメラ「TIRI(Thermal Infrared Imager)」の提供です。TIRIは「はやぶさ2」やESAのHeraミッションで実績のある観測機器で、小惑星表面の温度分布を測定することで物質の性質や内部構造を推定できます。二つ目は薄く軽い高性能な太陽電池パドル(Solar Array Wings, SAWs)です。限られた質量の中で十分な電力を確保でき、探査機全体の性能向上に貢献します。そして三つ目がDESTINY+との相乗りによるH3ロケットを想定した打上げ機会の提供です。観測機器から打上げ手段までを含めた協力はESAとJAXAにとって初の本格的なプラネタリーディフェンス連携となります。

JAXA RAMSESミッションパッチ
JAXA側のRAMSES MISSIONロゴマーク。
ESA RAMSESミッションパッチ ©ESA
ESA側のRAMSES MISSION ロゴマーク。

未来への意義

RAMSESミッションは、単に小惑星を詳しく調べる科学探査にとどまりません。地球に潜む自然のリスクを正しく理解し、万一に備えるという社会的な意義を持つ取り組みです。JAXAが得意とする観測技術や輸送技術が国際ミッションで生かされることで国内の研究や産業にも新たな波及効果が期待されます。また、日本から打ち上げられる可能性のある探査機が地球防衛に貢献する姿は、多くの人に宇宙を「自分たちの未来に関わるもの」と感じてもらうきっかけにもなるでしょう。RAMSESは国境を越えた協力によって地球を守るという、新しい宇宙活動の象徴となるミッションです。