JAXAのプラネタリーディフェンスとHera
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が主導する「Hera(ヘラ)」ミッションはプラネタリーディフェンスの実証を目的とした重要な探査計画です。このミッションは、NASAが実施した「DART(ダート)」と連携して進められています。DARTは二重小惑星ディディモスの小さな衛星ディモルフォスに探査機を衝突させ、その軌道を人為的に変化させる実験を行いました。これに対しHeraは衝突後の現地に直接赴きその影響を詳細に観測する役割を担います。具体的には小惑星の形状やクレーターの状態、物質の分布、さらには軌道の変化量などを総合的に調べることで「衝突による軌道変更」という手法がどの程度有効であるかを科学的に評価します。このようにDARTによる“実験”とHeraによる“検証”が一体となることで、将来の脅威への具体的な対策技術が確立されていきます。
Heraの主要諸元
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 探査機構体寸法 | 約 1.6 × 1.6 × 1.6 メートル (展開時両翼11.5m) |
| 発電量 | 1180W max |
| 質量 | 1150kg(推進薬込み), 667kg (推進薬無し) |
| 打上げ | 2024年10月7日 (Falcon 9) |
Heraの観測機器と日本の貢献
Heraには複数の観測機器が搭載されており、その中の一つとして日本が提供する熱赤外カメラ「TIRI」があります。熱赤外カメラとは物体から放射される熱を測定する装置で、温度分布を画像として捉えることができます。TIRIは小惑星表面の温度を詳細に測定することで、表層の物質がどのような性質を持っているかを明らかにします。たとえば、砂のように細かい物質は温まりやすく冷めやすい一方で岩石は温度変化が緩やかです。このような違いを観測することで、表面の構造や物質の違いを推定することができます。この装置は「はやぶさ2」に搭載された熱赤外カメラの技術を発展させたものです。「はやぶさ2」では世界で初めて小惑星のサーモグラフィ(熱画像観測)が行われ貴重なデータが得られました。こうした経験がHeraにも活かされており、日本は観測技術の面で重要な役割を担っています。
Heraの主な搭載機器
| 搭載機器 | 主な役割・観測内容 |
|---|---|
| 可視光カメラ(AFC) | 小惑星の形状や表面地形の観測を行うためのモノクロ可視光カメラ。小惑星までの航法誘導制御にも使用します。 |
| レーザー高度計(PALT) | 小惑星までの距離を正確に計測し、重力場の計測を行う他、接近時の探査機と小惑星の衝突防止などにも使用します。 |
| 熱赤外カメラ(TIRI) | 小惑星表面の温度計測によって表層熱物性の調査を行います。赤外域の多波長分光によって表層物質の種類を特定します。 |
| 分光カメラ(HyperScout-H) | 小惑星表面の反射スペクトル測定によって、鉱物組成や宇宙風化の状態を調査する。 |
| 電波科学(X-DST、ISL) | 地上からのレンジ・ドップラ計測で探査機位置を決定し,小惑星の重力場を計測するとともに,母船と子機の測距を行い,子機の運動から両小惑星の重力場を調査する。 |
| 子機1(Juventus) | 低周波レーダ (JuRa)で小惑星の内部構造を探索。重力計 (GRASS)で,局所的な重力場を計測 |
| 子機2(Milani) | 可視近赤外分光撮像(ASPECT)で表層の鉱物組成を詳しく調査するとともに、ダストモニタ(VISTA)で塵の浮遊量を調査する。 |
RAMSES計画への展開
Heraで得られる知見は将来のミッションにも大きく活かされていきます。その一例となるのがJAXAとESAが共同で実施する「RAMSES(ラムセス)」です。この探査機は小惑星アポフィスを対象としたミッションであり、Heraと同型の設計が採用されています。アポフィスは2029年に地球へ非常に接近すると予測されており、これは極めて貴重な観測機会となります。RAMSESの場合、ミッションのための準備期間が非常に限られています。そのためHeraで確立された技術や開発・運用体制をほぼそのまま活用できることがミッションを実現のために大きな意味を持ちます。このようにプラネタリーディフェンスの取り組みは一回限りではなく継続して実施し、国際協力のもと技術や知見を蓄積していくことが重要なのです。